自然治癒力と自然免疫
(1) 医療の第一義は自然治癒力を賦活すること:医聖と言われた古代ギリシャのヒポクラテス(紀元前460年頃~紀元前370年頃)は、「人間は体内に100人の名医を持っている。医者のなすべきことは、その名医を手助けすることである。」(ヒポクラテスの格言)と述べ、医療の基本は自然治癒力を支援することであると述べました。このことは、東洋医学においても同様です。東洋医学では「扶正」と言い、正気(生命エネルギー)を扶けることを基本としています。扶正とは、すなわち自然治癒力の支援のことです。このように洋の東西を問わず、自然治癒力を効果的に活用することを医療の第一義としています。
その自然治癒力の主役の一つが、自然免疫です。
(2) 自然免疫とは:人間は、おおよそ60兆個の細胞から成り立っています。この人間の健康を維持するには、様々な外敵から身を衛らなければなりません。外敵、例えば細菌やウイルスなどの病原体から身を衛るには、外敵を素早く見つけ、処理しなければなりません。つまり自己と非自己を見分け、非自己を処理することが「免疫」です。
免疫の最前線で働く自然免疫
自然免疫は、原始的な生物にも備わっている仕組みです。ヒトにおいては最初に働く主な免疫細胞は、図1に示す樹状細胞、好中球、マクロファージ、NK細胞といった食細胞(細菌、ウイルスなどを食べる細胞)です。これらの食細胞は病原体を捕食し、処理します。これら自然免疫を担う細胞は、様々な分子を認識する受容体(レセプター)をもっており、これによって病原体を見つけ出し、速やかに反応してこれを処理しようとします。
次いで樹状細胞がどのような病原体が侵入してきたかの情報をT細胞に提示(抗原提示)し、T細胞を活性化させます。活性化したT細胞が攻撃すべき抗原(病原体)を集中的にピンポイントで攻撃します。これが獲得免疫です。抗体を作ったり、キラー細胞の捕食により病原体を処理します。このようにして最初の段階で自然免疫が応答し、次いで獲得免疫が対応するという流れが免疫の基本です(図2)。
ワクチンは、抗原(弱毒生菌、死んだ不活性箘、mRNAの情報)を体内に入れて抗体を作る方法です。今、話題の新型コロナウイルスのファイザーのワクチンは、mRNAワクチンです。
自然免疫力を元気づける鍼灸マッサージ
自然免疫には、一次と二次の防御線があります。図2 自然免疫と獲得免疫の連携(1) 一次防御線:生まれつき持っている生体防御機能で、これには皮膚と粘膜上皮が関わります。皮膚では、表皮の常在細菌による拮抗現象や静菌作用、角質細胞間脂質によるバリア機能、皮脂の脂肪酸による細菌増殖抑制があります。すなわち病原体が体内に侵入しないように化学的、物理的に防御する仕組みです。粘膜上皮では、粘液に含まれている分泌型IgA抗体(IgAは特定のウイルスや細菌だけに反応するのではなく様々な種類の病原体に反応して感染を防御します。
図3は、唾液中のIgA抗体が少なくなると風邪をひきやすくなるというデータです。(図は乳酸菌B240研究所HPより引用)
(2)二次防御線:一次防御線が突破された場合に働く生体防御です。これは図1で示した好中球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞が働きます(図1)。これら皮膚免疫に加えて腸管免疫が加わります。皮膚免疫については7号を、腸管免疫については2号を参照にしてください。
上記の自然免疫は、鍼灸マッサージ療法で活性化されることが期待されます。これまでの研究で好中球、NK細胞が活性化され、唾液中のIgA抗体の分泌が増加することが報告されています。生体防御の最前線を強化する、このことが新型コロナウイルス感染防止にも役立つものと思われます。